『MAQUETTE』は、2021年にGraceful Decayが開発し、Annapurna Interactiveが発売した一人称視点のパズルアドベンチャーゲームである。
本作は、ミニチュアモデルを活用した独創的なパズルに興味を持ち、早速プレイ。3~4時間程度の濃密な体験ののち、無事クリアまで到達出来たので早速レビューする。
パズルと感情が交錯するミニチュアの世界
『MAQUETTE』の最大の特徴は、入れ子構造のミニチュア世界だ。ゲームの舞台は広大な円形のジオラマのような空間であり、プレイヤーがいる場所が、さらに小さな縮尺で同じ世界の中心に再現されている。この”再帰的構造”を活用し、プレイヤーはオブジェクトの大きさを変化させながら進行する。
例えば、小さな鍵を巨大な扉の橋として使ったり、大きなオブジェクトを小型化して狭い場所に持ち込むといった具合に、サイズの概念を駆使してパズルを解く。この仕組みは直感的でありながら、プレイヤーに「次はどのように世界を操作すればいいのか」を考えさせる新鮮な楽しさを提供する。
本作のパズルシステムは、進めていく中で、その独創的なトリックに驚きを隠せない。このパズルを考案したクリエイターは天才的と言えるだろう。その分、通常のプレイではなかなか気づけない解法にライトユーザはストレスを覚える箇所もあるかもしれない。
一部のパズルはヒントが少なく、行き詰まりやすい場面がある。特にサイズ操作の仕組みに慣れるまでは試行錯誤を繰り返す必要がある。
感情を紡ぐストーリー
パズルが主軸である一方で、『MAQUETTE』のストーリーはプレイヤーの感情を大きく揺さぶるものとなっている。物語は、一組のカップルが出会い、恋に落ち、そして関係が変化していく過程を描いている。語られる内容は平凡とも言えるが、その平凡さがかえって普遍的な共感を呼び起こす。
二人の会話や手紙を通じて描かれる関係性の変化は、パズルを解き進めるごとに少しずつ明らかになる。その過程で、幸福な瞬間やすれ違い、そして失恋の痛みを、プレイヤーは自然と自分の経験と重ね合わせることになる。音楽やナレーションの演出も秀逸で、特にエンディングに至る感情のカタルシスは本作のハイライトである。
ビジュアルと音楽の魅力
『MAQUETTE』は、美しいビジュアルが魅力の一つだ。色鮮やかなジオラマ風の世界は、各エリアが異なるテーマでデザインされており、探索するたびに新鮮な驚きを与える。光と影の演出も美しく、プレイヤーを物語の世界に引き込む効果を生んでいる。
音楽は、心地よいアコースティックの楽曲や静かなピアノ曲を中心に構成されており、ゲーム全体に温かく落ち着いた雰囲気を与えている。一方で、ストーリーのクライマックスでは感情を引き立てる劇的な音楽が挿入され、物語のドラマ性を高めている。
まとめ:感情と知性を刺激する小さな傑作
『MAQUETTE』は、その独創的なパズルデザインと感情的な物語が見事に融合した作品である。プレイヤーは、自分の知性を試されるパズルの中で、普遍的な人間関係の喜びと苦しみを追体験する。短いプレイ時間の中に多くの魅力が詰まっており、パズル好きや物語重視のプレイヤーにはぜひ体験してほしい一作だ。
ゲームとしてのボリュームや操作性には若干の課題もあるが、それを補って余りある感動が詰まっている。ジオラマのような不思議な世界で、物語とパズルが織りなす旅を楽しんでほしい。
プレイ時間:約5時間
プラットフォーム:PS5
レビュータイミング:クリア後