「The Invincible | インヴィンシブル」評価・レビュー

「The Invincible」は、小説『未来学会議』や『ソラリス』などの名作で知られるSF作家スタニスワフ・レムの作品『インヴィンシブル』を原作とするゲームである。

私もまったく本作はノーマークであったが、その鮮烈なアートワークに目を引かれ、プレイすることに。前評判の通り、ディープなSFファンにはたまらない世界観になっており、比較的コンパクトなボリュームでエンディングまで到達出来たので、レビューする。


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宇宙の深淵に触れる哲学的な旅

The Invincible | Launch Trailer 4K

「The Invincible」は、プレイヤーを遥か遠い惑星レギスIIIに送り込む。プレイヤーは科学探査隊のメンバーとなり、行方不明になったチームの仲間たちを探すことになる。しかし、単なる探索ミッションとは異なり、物語は次第に哲学的な疑問や心理的な葛藤を浮き彫りにしていく。惑星レギスIIIはただの荒野ではなく、未知の生命体や謎めいたテクノロジーに支配されており、プレイヤーはこの場所で「人間の限界」や「生命の意義」といった根源的なテーマと向き合うことになる。

レム原作の物語に忠実でありつつ、ゲームではプレイヤーが直接的に選択を行い、物語の展開に影響を与える場面がある。この選択肢があることで、プレイヤーはより深く物語に没入し、物語の結末に至るまで緊張感を持って進められる。


ミステリーとサバイバルの融合

「The Invincible」はアドベンチャーゲームとして設計されており、プレイヤーは探索と環境調査を通じて物語を進めていく。手掛かりを見つけて謎を解き、探索中に出会うテクノロジーや装置を操作することで進行するが、単なる謎解きだけではなく、未知の生物や自然現象が恐怖や驚きをもたらすこともある。敵と直接戦闘する場面は少ないが、緊張感に満ちた体験を提供する独自の「サバイバル」が展開される。

ゲームの進行は比較的ゆったりとしており、探索中に遭遇する環境や装置に注目することが重要である。プレイヤーは手掛かりを元に状況を分析し、行動を決定しなければならない。これにより、ゲーム全体が「謎解き」だけではなく「観察」と「思索」を求める構成となっている。


レトロフューチャーな未来像

グラフィック面では、「The Invincible」はユニークなレトロフューチャーなビジュアルを採用している。未来的な技術や装置が登場しつつも、どこか懐かしさを感じさせるデザインが特徴的であり、まるで60年代や70年代のSF映画を観ているかのような雰囲気が漂う。荒涼とした惑星レギスIIIの風景も圧巻で、プレイヤーは未知の惑星での孤独感や不安をリアルに感じ取ることができる。

また、キャラクターや環境のディテールも細かく描かれており、時折挿入されるカットシーンや場面転換が物語の緊張感を引き立てる。無機質で広大な宇宙の景観と、小さな探査隊の人間味が見事に対比されている点も注目すべきポイントである。


静寂の中に響くSF的緊張感

「The Invincible」の音響もまた、ゲームの没入感を高める重要な要素である。宇宙や荒野を探索する際の無音や、時折耳に届く風や環境音が、プレイヤーに孤独と緊張を感じさせる。また、会話や無線の音声も、レトロフューチャーの雰囲気を醸し出す工夫がされており、SF作品の緊張感を効果的に引き立てている。

音楽も少なめに抑えられており、必要以上にプレイヤーの気を散らさない静かな演出が特徴だ。無音の中に時折流れる音楽や効果音が、神秘的で不気味な体験を一層際立たせている。


存在と人間性の再定義

「The Invincible」の大きな魅力は、単なるSFアドベンチャーではなく、哲学的なテーマが随所に織り交ぜられている点にある。未知の惑星での体験を通して、プレイヤーは「人間とは何か」「知性とは何か」といった問いに直面する。レム原作の哲学的な問いかけをゲームに落とし込み、体験を通じて深く考えさせる構成が、他のSF作品にはない独特の奥深さを生んでいる。

この作品は、宇宙の神秘に迫るだけでなく、人間の本質に向き合う問いかけを内包しており、探索や謎解きの合間に、こうしたテーマに思いを巡らせる瞬間が生まれる。プレイヤーは、ただの探査隊員ではなく、宇宙の深淵に触れる哲学者のような存在としてレギスIIIの地に立つことになる。


気になる点:テンポと自由度

「The Invincible」の気になる点として挙げられるのは、進行のテンポや自由度の制限である。物語や探索の進行がゆっくりとしており、テンポの速いアクションゲームに慣れているプレイヤーには、やや退屈に感じられる可能性がある。また、探索や選択肢が限定されているため、オープンワールドのような自由度を期待するプレイヤーには物足りなさを感じるかもしれない。

しかし、これはあえて緩やかなテンポで進行することで、哲学的なテーマに集中させる意図とも考えられる。特定の方向性をもって進められる物語は、ある意味でレム作品のメッセージ性を強調するものでもある。

本作は、マルチエンディング方式が採用されており、物語の終盤での選択肢によって、複数のエンディングが用意されている。


まとめ:哲学的なSFアドベンチャーの傑作

The Invincible」は、単なる探索アドベンチャーではなく、スタニスワフ・レムの哲学的な問いかけを踏まえた、奥深いSF作品である。プレイヤーは未知の惑星レギスIIIでの探索を通じ、心理的、哲学的な旅路を体験することになる。ゆったりとしたテンポや静寂の中で浮かび上がる「人間の本質」というテーマが、この作品を特別なものにしている。

SFファンや、深いテーマを持つ作品を愛するプレイヤーにとって、「The Invincible」は必見の一作である。

The Invincible
プレイ時期:2024年11月
プレイ時間:約5時間
プラットフォーム:PS5
レビュータイミング:クリア後
シナリオ
グラフィック
音楽
新規性
やり込み度
良いところ
素晴らしいアートスタイル
SFファンにはたまらない雰囲気
文学的であり、哲学的な進行
気になるところ
ゲーム性としては単調
3.7