『マフィア:オリジン ~裏切りの祖国』は、マフィアシリーズの前日譚にあたる作品である。舞台は20世紀初頭のシチリア島。極貧の鉱山で働かされていた少年エンツォ・ファヴァーラが、トリージ・ファミリーに拾われ、やがて裏社会の一員として成り上がっていく。
私自身は「MAFIA」シリーズは、完全に初めてであったが、本作がストーリードリブンで比較的コンパクトなボリュームで纏まっているという前情報から思わず手に取ってしまった。そして、プレイ開始するや、その圧倒的な没入感で止め時を失い一気にエンディングまで到達。
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裏社会の“原点”を描く重厚なドラマ
本作はオープンワールドを採用せず、リニアなステージ構成をベースにしている。しかし、その分一つひとつのシーンの密度が濃く、背景の美術や人物の仕草に至るまで丁寧に描き込まれている。私も途中、ゲームをしているのか、映画ドラマを見ているのか分からなくなるほどに、高次元の没入度を実現している。
驚異的説得力のグラフィック表現
本作のゲームエンジンには、Unreal Engine 5が採用されており、シチリアの石畳の街路、ぶどう畑に広がる夕陽、埃っぽい鉱山、重厚な屋敷やオペラハウスなど、極めて写実的に表現されている。映画的な場面転換が繰り返され、まるで往年のマフィア映画をプレイしているかのような没入感を与える。
また、ローカライズにも力が入っており、英語音声に加えてシチリア語音声が収録されている点は特筆すべきである。現地の文化や言葉をそのまま体験できることは、物語の真実味を高める大きな要素となっている。
日本語訳も丁寧に実施されているが、吹替がない点は残念なポイントである。
ゲームプレイと操作感

戦闘はシンプルながら重厚である。ナイフを用いた近接戦、拳銃やショットガンを使った銃撃、ステルスによる暗殺などがあり、プレイヤーは状況に応じた選択を迫られる。敵に囲まれれば即座に死が訪れるため、一つの判断の重さが緊張感を生む。
移動手段も時代性が反映されている。石畳の街中では馬や馬車を使い、郊外の荒野では初期の自動車を駆ることができる。乗り物の操作は現代のレースゲームほど快適ではなく、むしろぎこちなさがリアリティを生み、時代の空気を強調している。
また、銃撃戦の合間に挿入されるカットシーンや会話は、映画的演出とインタラクションが巧みに融合しており、ゲームプレイがそのまま物語を推進する仕組みになっている。
キャラクターとテーマ性

主人公エンツォは、ただの復讐者や野心家ではなく「家族のために、裏切りに耐えながらも抗う青年」として描かれている。その内面的な葛藤は、プレイヤーに“正義とは何か”“忠誠とは誰に捧げるものか”を問いかける。
ファミリーのボスであるトリージや、同じ若手構成員たちも個性的に描かれ、それぞれが持つ思惑や裏切りが物語の厚みを増す。タイトルにある「裏切りの祖国」という副題は、国家や家族、仲間への忠誠が幾重にも試されるテーマを象徴している。
プレイ時間はおよそ15〜20時間。オープンワールドのように寄り道があるわけではない。濃密なシナリオとシチュエーションが途切れなく展開するため、一本の映画シリーズを通して見ているような満足感がある。
総評
『マフィア:オリジン ~裏切りの祖国』は、マフィアシリーズに新たな命を吹き込む“原点回帰”の作品である。重厚な物語と演出、映画的な場面構成、時代背景に基づいた世界観、そして緊張感のある戦闘が一体となり、強い没入体験を実現している。
一部では「旧来の操作感」や「自由度の制限」に物足りなさを感じるプレイヤーもいるだろう。しかし、シリーズが本来持つ“物語を体験させる力”は揺るぎなく、むしろ純度を高めた形で表現されている。
マフィア映画や歴史ドラマを愛する者にとって、本作は見逃せない作品である。裏切りと忠誠が交錯するシチリアの原風景を、自らの手で体験することができるだろう。
プレイ時間:約15時間
プラットフォーム:PS5 Pro
レビュータイミング:クリア後