『Road 96』は、自由と不安が交錯する国を舞台に、プレイヤー自身が「脱出の旅」を体験するナラティブ・アドベンチャーである。開発はフランスのインディーゲームスタジオDigixArt。2021年のリリース以降、独創的なストーリーテリングとリプレイ性の高さで高い評価を受けた作品である。
私自身、その高い評判から、以前から気になっていた作品。ようやくプレイしクリアまで到達出来たので早速レビューする。
独裁国家からの脱出を目指して
舞台は架空の国「ペトリア」。ここは選挙を目前に控えた独裁国家であり、若者たちは自由を求めて国境越えを目指している。プレイヤーは名もなきティーンエイジャーとなり、それぞれ異なる背景を抱えた旅人として「Road 96」を目指す。
この国は一見カラフルで明るいが、その裏には不正、腐敗、監視、弾圧といった重苦しい現実が隠されている。陽気なガソリンスタンドの脇に検問があり、親しげな人々も時にはプレイヤーを裏切る。この世界観のコントラストこそが、『Road 96』の大きな魅力の一つである。
ランダムに生成される進行システム

本作の進行は完全な一本道ではない。プレイヤーが操作するのは「国境を目指す無名の若者たち」であり、各チャプターで新しい旅人が選ばれる仕組みになっている。
各旅人は異なるスタート地点、出会う人物、乗り物、危険に直面することになる。シナリオは事前に書かれたパーツを組み合わせる形ではあるが、ランダム生成のバランスが巧妙で、周回プレイにおいても飽きを感じさせない。
プレイヤーの選択は旅の成否だけでなく、国家全体の未来にも影響を与える。道中で出会うキャラクターたち――理想に燃えるラジオDJ、裏社会の犯罪者、謎めいた警官――との関わり方が、その後のストーリー展開を微妙に変化させる。
また、体力(スタミナ)と所持金の管理が重要であり、無理な移動や選択を続ければ、脱出は失敗に終わる。旅の途中にはミニゲーム的な要素も散りばめられ、単なる会話型アドベンチャーに留まらない多層的なゲーム体験が用意されている。
リプレイ性と演出|「同じ道は二度とない」

本作のリプレイ性は非常に高い。複数回プレイすることで、初見では明かされなかったキャラクターの過去や陰謀の全貌が徐々に明らかになる構成となっている。プレイヤーが断片的に拾った情報が、周回を経て一つの真実に収束していく流れは、極めて見事である。
ビジュアルはシンプルながら色彩豊かであり、ポップな色調の中にも不穏さが漂う。音楽も特筆すべき完成度であり、1990年代風のエレクトロやフォーク、オルタナティブロックが旅の空気感を絶妙に彩る。特に重要な場面では楽曲が感情の流れを後押しし、映画的な没入感を生み出している。
まとめ|自由とは何かを問う、旅と選択の物語

『Road 96』は単なる脱出劇ではない。自由を求めるとはどういうことか、個人と国家、希望と絶望の間で揺れる感情を、プレイヤー自身に体験させるゲームである。派手な演出はないが、静かに心に残る作品であり、選択によって形を変える物語の力を改めて感じさせてくれる。
ナラティブアドベンチャーの新たな可能性を示した本作は、物語重視のゲーマーにとって必携といえるだろう。そして何より、本作が問いかける「自由とは何か」というテーマは、現実世界に生きる我々にも無関係ではないのである。
本作は、日本語字幕があるものの、翻訳にやや不自然な箇所が散見された。また日本語の吹替がない点は、残念である。
プレイ時間:約7時間
プラットフォーム:PS5
レビュータイミング:クリア後